ヘリサート(ねじインサート)とは? 加工に役立つ下穴深さの考え方

ヘリサート(ねじインサート)とは? 加工に役立つ下穴深さの考え方

低コスト化や軽量化が求められる製品には、やわらかい材料が使われることがあります。そのままでは強度面の問題があるやわらかい材料に高い締結力を持たせたり、破損しためねじを修復したりする時に使われるのが「ヘリサート(ねじインサート)」と呼ばれる部品です。
ここでは、ヘリサートの用途や種類ごとの特徴、使用する際の下穴のあけ方などをご紹介します。

ヘリサートとは

ヘリサート(ねじインサート/スプリュー)とは、樹脂やアルミのようなやわらかい素材に補強材として使用する、外径も内径もねじ形状をしたコイル状のナットのことです。海外では「Helicoil(ヘリコイル)」と呼ばれます。
通常、やわらかい素材に直接タップを立てると、めねじが弱くつぶれやすいため、強い締結力を得られません。そのままでは、製品の不備や破損につながる恐れがあり危険です。
そのような素材には、ヘリサートをねじ山に埋め込むことで、めねじの破損を防いだり、締結力を高めたりすることができます。
また、コイル形状のヘリサートはねじ山のピッチのズレにも対応可能です。自由外径はタップ穴よりも大きく設計されているので、ねじを取り外す際にヘリサートも一緒に抜ける心配はありません。
主な用途としては、宇宙産業や航空機、自動車、電子機器などが挙げられます。特に、近年は製品の低コスト化や軽量化に伴い、プラスチックなどのやわらかい素材を使用した製品が増えてきています。
そのような製品に、締結力の強いめねじを作りたい時に使われることが一般的です。

ヘリサートの種類

ヘリサートには、形状の異なるさまざまな種類があります。それぞれの違いを踏まえて、適切に使い分けることが大切です。主なヘリサートの種類と、それぞれの特徴をご紹介します。

・タング付きヘリサート

「タング」と呼ばれる出っ張りが先端についているタイプです。ヘリサートを挿入する工具の先端の溝にタングを引っかけ、回しながらヘリサートを挿入します。
通し穴の場合は、挿入が終わってからタングを折ったり、抜き取ったりする手間がかかります。タングを折った後は、調整が難しくなる点にも注意が必要です。
ただし、止まり穴などでねじがタングに当たらない時は、タングを折る必要はありません。

・タングレスヘリサート

名前のとおり、タングがついていないヘリサートです。工具の溝にノッチと呼ばれる切り欠き部分を引っかけて、回しながら挿入します。
挿入後にタングを折ったり、取り出したりする必要がないため、作業工数の削減につながるのがメリットです。挿入する方向も自由で、上下どちらからでも挿入することができます。

・ロックタイプ

一般的なヘリサートは円形に巻かれていますが、ロックタイプのヘリサートはコイルの内径の一部が円ではなく、多角形になっているのが特徴です。
ボルトの側面を締め付けることで緩みにくさを向上させていて、温度変化や振動による緩みを防ぎたい場所に使われます。
挿入にあたっては、ロックタイプ専用の工具を使用する必要があります。
また、多角形の部分は独自に設計されており、形状や深さ、コイル数などはめねじの規格によって異なります。

ヘリサートの下穴径や長さ・深さの考え方

ヘリサートを挿入する時は、下穴をあけてからタップを立てる必要があります。この時、下穴は通常のねじサイズよりも大きくなり、タップ径もヘリサート専用のものが必要です。 具体的には、タップ下穴の径(mm)はM2が2.09~2.16、M3が3.12~3.20、M5が5.16~5.33など、メートル並目ねじ用の下穴とは異なる点に注意してください。
また、ヘリサートの長さは、適用するねじの呼び径の1倍(1D)・1.5倍(1.5D)・2倍(2D)の3種類が標準となっています。

ヘリサートの挿入方法

ヘリサートを挿入する際は、専用の工具を使って、正しい手順で加工を行う必要があります。具体的な挿入方法は、以下のとおりです。

【ヘリサートを挿入する時の手順】
1.ドリル加工でタップ下穴をあける
2.ヘリサート用のタップを立てる
3.挿入前に下穴の寸法を確認する
4.挿入工具を使用して、ヘリサートを挿入する
5.タング折り取り工具を挿入し、タングを折り取る(タング付きヘリサートの場合)

前述のとおり、ヘリサートを挿入する際の下穴は、通常のねじの下穴とは異なります。ヘリサート用の図表を参考に、適切な径のドリルを用意しましょう。
また、ヘリサートの挿入は基本的には手作業で行うため、ヘリサート指示が多いほど加工コストがかさみます。ヘリサートの数が多く加工コストがかかる時は、使用する材質を見直すのも有効です。

ヘリサートは適切に使うことがポイント

ヘリサートは、めねじの強度を高めるためにさまざまな場所で使われています。ヘリサートを活用することで、めねじがつぶれやすい母材でも高い締結力を得ることが可能です。
ただし、ヘリサートを使うほど手作業が増えるため、加工コストが高くなる可能性があります。コストカットを目的にやわらかい材料を選定していた場合は、材料から見直してみることをおすすめします。
製品の品質を高めるために、ヘリサートを上手に活用してみてはいかがでしょうか。

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