歯切り盤とは?歯車の種類ごとに使い分けて加工精度を高めよう

歯切り盤とは?歯車の種類ごとに使い分けて加工精度を高めよう

歯切り盤とは、歯車(ギア)の製造に使われる工作機械のことです。歯切り盤にはいくつか種類があり、特徴に応じて使い分けることで、さまざまな種類の歯車を製造できるようになります。この記事では、歯切り盤の特徴や種類、歯切り盤によって作れる歯車や歯切り加工の方法についてご紹介します。

歯切り盤とは

機械の内部では、物理的な動力伝達の手段としてさまざまな形状・大きさの歯車が動いています。歯車の噛み合う軸や大きさを変えることで、力が伝わる向きや回転速度を変えることが可能です。さまざまな形状の歯車を作る加工は歯切り加工と呼ばれ、材料となる素材に対して歯車を成形するよう切削していくことで、目的の形状を作り出します。このような歯切り加工を行い、歯車を作ることに特化した工作機械が「歯切り盤」です。

歯切り盤の種類

歯切り盤は、加工の方式によっていくつかの種類に分かれます。代表的な歯切り盤の種類についてご紹介します。

・ホブ盤

ホブと呼ばれる刃物を主軸に取り付け、回転させることで歯切り加工を行う工作機械です。 ホブは外周に多数の切れ刃と溝が螺旋状に配置された歯車用の切削工具で、成形したい歯車に噛み合う形状をしています。

・ギアシェーパ

ピニオンカッタまたはラックカッタを用いて、歯切り加工を行う工作機械です。歯車形削り盤とも呼ばれます。ホブ盤はホブと被削材を回転させて歯切り加工を行いますが、ギアシェーパは刃物の上下運動で切削していく「形削り」の加工を行うのが特徴です。

作業効率は低く、ホブ盤で成形できる歯車はホブ盤を使う方が効率的ですが、ホブ盤では加工が難しい一部の特殊な形状の歯車に対して、ギアシェーパが使われます。

・歯車研削盤

歯車研削盤は、高速回転する砥石によって歯車を整形する研削盤の一種です。焼入れした高硬度の被削材から、高精度な歯車を加工する際に使われます。

・傘歯車歯切り盤

傘歯車の歯切りに特化した工作機械です。 複数の刃が取り付けられた円盤状の切削工具を被削材に押し当て、回転させることで歯切りを行います。

・歯車シェービング盤

歯切り加工によって形成された歯車の仕上げをする工作機械です。歯切り済みの歯車に歯車状の工具を噛み合わせて回転させ、表面を滑らかにしたり、噛み合わせの補正をしたりする場合に使われます。

歯切り加工の主な種類

歯切り加工は、大きく2種類の方法に分けることができます。それぞれの特徴や詳しい手順について見ていきましょう。

・創成法

歯車の全体を少しずつ切削していくのが創成法です。ホブ盤やギアシェーパによる歯切り加工などが該当し、複数枚の砥石を取り付けて研削加工をする場合は、歯車研削盤の加工も創成法に含まれます。作業効率が良く全体の精度が平準化されるため、量産品の製造に適している加工法です。

・成形法

成形法は、歯車の歯を1つずつ成形していく方法です。フライス盤によって歯車を作る際は、この成形法が用いられます。汎用のNC工作機械で加工できるため、コストを抑えられるのが成形法のメリットです。
ただし、被削材の固定が精度に大きく影響し、創成法に比べて加工効率や精度は劣ります。

歯車を加工する際に重要な歯すじ修正

作成した歯車同士の接触が悪く、正常に駆動しなかったり不快な音が発生したりする場合は、歯車の歯すじを修正する必要があります。歯すじの代表的な修正方法は、「クラウニング」と「レリービング」の2種類です。それぞれの加工方法の特徴をご紹介します。

・クラウニング

歯車の歯すじ中央に向かって丸みを持たせるのがクラウニングです。歯の端側を削り中央に膨らみを持たせることで、歯端の悪い歯当たりを防げるため、動作不良や故障などの対策になります。
ただし、クラウニングを大きくすると悪い歯当たりは改善するものの、歯当たり面積が小さくなります。歯すじの強度が下がり、異常摩耗などにつながる恐れがある点には注意が必要です。

・レリービング

歯すじの両端だけを逃がすように加工する方法です。クラウニングと同じく、歯すじの端側に悪い歯当たりが集中するのを防ぐための加工で、材質などの問題でクラウニング加工が行えない場合に使います。

歯切り盤で作れる歯車の種類と特徴

歯車は、軸方向(力の向き)や形状、用途などによってさまざまな種類に分けられます。歯切り盤を使った加工で作ることのできる代表的な歯車の種類と、それぞれの特徴は以下のとおりです。

・平歯車(スパーギア)

歯車の中心軸に対し平行な溝を持つ歯車が平歯車で、スパーギアまたはスプルーギアとも呼ばれます。製造が容易で、多くの場面で使用されている一般的な歯車です。スラスト荷重(軸方向にかかる力)が発生しないのが特徴で、全体をシンプルなメカニズムにできるためコストに優れます。

・はすば歯車(ヘリカルギア)

歯車の溝が斜めにねじれている歯車で、ヘリカルギアともいいます。歯車同士の接する面積が大きく圧力が分散されるため、強度や静音性に優れていますが、軸方向に荷重がかかるので軸受に工夫が必要です。多くの場合、ホブ盤によって製造されます。

・やまば歯車(ダブルヘリカルギア)

はすば歯車を2つ組み合わせた形状で、ダブルヘリカルギアともいいます。2つの歯車がスラスト荷重を打ち消しあうため、はすば歯車よりも強度に優れます。振動や騒音を抑えられ、大きな動力を伝えられる点もメリットです。

・傘歯車(ベベルギア)

円錐状の外側に歯があり、開いた傘に似た形状をした歯車です。溝の向きにより、直歯(すぐば)傘歯車やまがりば傘歯車、はすば傘歯車などの種類に分けられます。異なる向きで交わる軸の間で、回転や動力を伝えるために使われることが一般的です。 傘歯車の製造に特化した、傘歯車歯切り盤で製造します。

・ラックとピニオン

シルエットがノコギリのようにも見える、直線の棒に歯すじをつけたものがラックです。ラックに噛み合う平歯車がピニオンで、ラックとピニオンは必ずセットで用いられます。ギアシェーパで加工するの が一般的です。ラックアンドピニオン、またはラックピニオンと呼ばれることもあります。カメラの三脚や、ボール盤の主軸高さ調整などに使われていて、目にする機会も多い歯車です。

・ウォームギア

螺旋状に溝が入った円柱状の歯車を回転させ、軸と並行方向にものを送り出す力を与えるための歯車です。ウォームホイールと呼ばれる歯車を噛み合わせ、ウォームギアを回転させることで、軸の回転方向を90°変える回転が得られます。

傘歯車よりも小型・軽量で静音性にも優れていますが、ウォームホイール側を回転させて逆方向に駆動を伝達することはできません。

・内歯車(インターナルギア)

円筒の内側に歯が刻まれている歯車です。遊星歯車と呼ばれる構造の歯車などに用いられ、外側の歯車と対で使用されます。内歯車は同方向への回転を伝達する役割で使われ、主にギアシェーパによって製造されます。

・ハイポイドギア

2つの歯車が平行ではなく交わることもない「食い違い軸」で、歯すじがらせん状になっている歯車です。まがりば傘歯車と似ていますが、ハイポイドギアはまがりば傘歯車と異なり軸が交差しない点が異なります。

また、歯すじ方向に滑る力を加えられるため、騒音や振動を抑えられる点もメリットです。大きな減速比を得られることから、主に自動車の駆動部や工作機械といった用途で使われます。
一方で、歯すじ方向に滑ることから動力の伝達効率が悪化する、摩擦熱が発生するため潤滑油の使用が欠かせないといったデメリットがある点に注意が必要です。

歯形による歯車の分類

歯車は、曲線形状(歯形)から「インボリュート歯形」と「サイクロイド歯形」の2種類に大きく分けることもできます。歯形ごとの特徴は、以下のとおりです。

・インボリュート歯形

歯形がインボリュート曲線という形状になっています。インボリュート曲線とは、円筒に巻き付けた糸をたるまないようほどいた時に、糸の先端が描く軌跡のことです。 インボリュート歯形は、歯車同士の噛み合いがスムーズで歯への負担が少なく、滑らかに動作するという特徴を持っています。加工が簡単で低価格なことから、多くの機器で使用されている歯形です 。

・サイクロイド歯形

サイクロイド曲線と呼ばれる形状の歯形です。サイクロイド曲線とは、直線上を円が転がる際に、円のある1点が描く軌跡のことを指します。
インボリュート歯形よりも歯元の面積が大きく、強度に優れているのが特徴です。加工は難しいものの、回転抵抗も低く力の伝達効率が高いことから、時計や精密機械などで使用されています。

歯車の種類に応じて歯切り盤を選定しよう

歯車は、人類の発展に大きく貢献してきた部品のひとつです。歯車には多くの種類があり、それぞれ特徴が異なります。どのような用途に使うのかに応じて、適切な歯車を選択することが重要です。
歯車の種類が多くあるように、歯切り加工を行う歯切り盤も複数の種類に分けることができます。どのような歯車を作りたいかによって、加工の方法や加工に用いる歯切り盤は異なるので、製品形状に応じて慎重に歯切り盤を選定することが重要です。

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