- さまざまなことが読み取れる「切りくず」
- -切りくずの色
- -切りくずの形
- -切りくずの厚さ
- -切りくずの巻き径
- -切りくずの飛散する方向
- 切りくずによる加工時のトラブルと対処法
- -切りくずの巻き付きによって発生する傷
- -装置への噛み込み
- -切り粉詰まりによる切削抵抗の増加
- -構成刃先の形成
- -作業者のけが・やけど
- 切りくずの状態をよく確認し、正しく処理しよう
材料を削ることで目的の形状を作る切削加工では、「切りくず」が必ず排出されます。切りくずは製品にとって不要な部分ですが、状態からさまざまな情報を得ることができる、加工状態の情報源になるものです。
この記事では、切りくずから読み取れる切削加工の状態や、切りくずが引き起こすトラブルと対処法をご紹介します。
さまざまなことが読み取れる「切りくず」
切削加工では、切りくずの状態からさまざまな情報を読み取ることが可能です。切りくずの色や形からどのような情報が読み取れるのか、要素ごとにご紹介します。
・切りくずの色
鉄鋼材料は加熱されると空気中の酸素と反応し、酸化皮膜を形成します。酸化被膜の厚さは加熱された温度と時間によって変化し、それによって色の見え方も変わるのが特徴です。
切削時の温度が高ければ酸化被膜は厚くなり色は青く、温度が低いと酸化皮膜は薄くなり黄色っぽく見えます。
つまり、切りくずの色から、どれくらいの切削熱が発生したかを確認でき、切削条件や工具が適切だったのかの目安にできるということです。色と切削時の温度の関係は、以下のようになります。
薄黄色:約300℃
褐色:約350℃
紫色:約400℃
すみれ色:約450℃
濃青色:約530℃
淡青色:約600℃以上
・切りくずの形
切りくずの形からも、加工の状態がわかります。切りくずの形は、流れ形、せん断形、き裂形、むしれ形の4種類に大きく分けられます。
・流れ形:切削条件のバランスや切削工具の状態が良好で、安定した加工ができている
・せん断形:切削条件や工具がベストとはいえない状態で、加工精度は流れ形より落ちる
・き裂形:被削材の材質がもろい場合に起こりやすく、加工精度は良くない
・むしれ形:切りくずの排出に問題があり、切削に干渉している状態でできる。延性の高い被削材でも起こりやすく、加工精度は悪い
切りくずが刃先に付着する「構成刃先」が発生した場合も、むしれ形の切りくずを引き起こす原因となります。
・切りくずの厚さ
切りくずの厚さによってせん断角がわかります。
切りくずが薄ければせん断角が大きく、厚ければせん断角は小さいことが読み取れます。切削工具の切れ味の良さや切削油の潤滑性能を判断することも可能です。
・切りくずの巻き径
切削加工において、切りくずが作られる時は表と裏で流出速度が異なるため、切りくずは巻いた状態で発生します。
切りくずが細かく巻いている場合は、すくい面の摩擦係数が低いことを表します。この場合は、切削工具の切れ味が良い、切削油の潤滑性能が高い状態だと判断することが可能です。
・切りくずの飛散する方向
同じ切削条件や切削工具を用いて加工を行っても、わずかな塑性変形の力の差によって、切りくずはさまざまな方向に飛んでしまいます。
しかし、切りくずが理想的に生成されている場合、ある程度は同じ方向に飛びます。切りくずの飛散する方向からも、切削条件や工具の状態を把握できるということです。
特に、切削工具の切れ味が良好だと、飛散する方向も安定する傾向にあります。
切りくずによる加工時のトラブルと対処法
加工精度を判断する材料になる一方で、切りくず自体が加工精度を落とす原因になることもあります。
切りくずが引き起こす加工時のトラブルの例としては、以下が挙げられます。
・切りくずの巻き付きによって発生する傷
切りくずが被削材や切削工具に巻き付き、製品を傷つけてしまうことがあります。切りくずの巻き付きは、チップブレーカによる切りくずの粉砕や、ノーズRの調整、切り込み角・切り込み深さ・送り・切削速度などの切削条件の調整で解決できます。
被削材の材質によっても切りくずの形は変わるため、被削材ごとに適した条件を設定することが重要です。
・装置への噛み込み
細かい切り粉がチャックやシャンクに噛み込み、工具や被削材を交換する際にトラブルになることがあります。噛み込みは加工不良の発生や、アラーム頻発などの原因となり、生産効率の低下にもつながります。
クーラントの使用や切りくずのコントロールなど、噛み込みを解消する工夫が必要です。
・切り粉詰まりによる切削抵抗の増加
切りくずが排出されにくい穴加工では、穴の内部に切り粉が詰まってしまい、工具の抵抗が増加する可能性があります。工具の破損につながる可能性があるため、切りくずの排出性を考慮して加工を行うことも重要です。
・構成刃先の形成
切りくずが工具のすくい面上でうまく流れず切削熱が上昇し、構成刃先を形成することも考えられます。構成刃先は仕上がりや面粗さ、寸法精度を低下させる原因になるので注意が必要です。
被削材の材質と反応しにくいコーティングの選定や、切削熱の冷却、切り込み角の調整による切りくずの排出性向上といった対策を行いましょう。
・作業者のけが・やけど
手作業で操作する汎用旋盤や汎用フライス盤では、切りくずがワークや工具に巻き付いたまま回転し、作業者のけが・やけどの原因となることもあります。切りくず処理に加えて、適切な作業服装や保護具の使用も重要です。
切りくずの状態をよく確認し、正しく処理しよう
切りくずの色や形は、切削加工の状態を判断する情報源です。切りくずの状態を確認しながら、適切に切削条件や工具を調整すれば、加工精度を高めることにつながります。
一方で、切りくず自体がトラブルの原因となる場合もあるため、正しく処理することが重要です。
切りくずの状態や処理方法について見直し、加工時の精度向上に結びつけましょう。