塑性加工とはどんな加工? 代表的な種類とメリット・デメリット

塑性加工とはどんな加工? 代表的な種類とメリット・デメリット

材料の形を変えて目的の形状にする金属加工にはさまざまな種類がありますが、そのひとつに塑性加工があります。この記事では、塑性加工の特徴や種類、メリット・デメリットなどをご紹介します。

塑性加工とは

物体に対して一定の力を加えると、壊れたり、変形してから元の形に戻ったり、または変形したままになったりと、素材や環境によっていくつかの結果が得られます。この中で、一定以上の力で変形させると元に戻らなくなる性質を「塑性(そせい)」、塑性によって変形することを「塑性変形」と呼びます。
この性質を活用し、物体を一定の力で変形させて目的の形状を得るのが「塑性加工」です。

塑性とは逆に、変形しても力がなくなると元に戻る性質は「弾性」と呼ばれます。ゴムやばね鋼といった弾性素材は、力を加えても元に戻ってしまうため、塑性加工に適しません。
また、ガラスや陶器、水素の影響を受けた金属など、力を加えると破壊される脆いものは脆性素材といい、こちらも塑性加工には不向きです。

塑性加工の種類(方法による分類)

塑性加工は、加工方法によっていくつかの種類に分けられます。ここでは、それぞれの特徴やどのような製品に使われているかをご紹介します。

・鍛造

鍛造は、工具や金型を用いて材料を圧縮、打撃して変形させる加工です。変形と同時に材料は鍛錬され、組織密度が上がることによって機械的強度も向上します。
鍛造加工は工具やエンジンのコンロッドなど、強度が求められる製品に使われます。

・プレス成形

プレス機とプレス金型を使い、板材を目的形状に変形させる加工です。曲げ加工や絞り加工、張り出し加工、せん断加工など、いくつかの手法に分けられます。

【曲げ加工】
板状や棒状の素材に力を加え、素材を押し曲げる加工方法です。押し曲げる形状から、V曲げやL曲げ、U曲げ、Z曲げといった種類に分けられます。

【搾り加工】
金型を押し当てることで、板材を容器状に成形する加工です。完成品には継ぎ目ができません。工数をかけずに複雑な形状に仕上げられるのもメリットです。

【張り出し加工】
板材に金型を押し当てることで、凹凸のある製品に成形します。搾り加工と似ていますが、固定した板材に金型を押し当てるので、板厚が薄くなるという違いがあります。

【せん断加工】
金属に金型を押し当てて切り取るのがせん断加工です。シャーリング加工とも呼ばれます。

プレス成形は、自動車のボディ、洗濯機や冷蔵庫といった家電の外装、アルミ缶を作る際など、さまざまな場面で使われています。

・圧延

回転するローラー(圧延ロール)の隙間に材料を通して、潰しながら延ばして目的の形状にする加工方法が圧延加工です。加工には圧延機と呼ばれる機械が用いられます。
潰して延ばすという加工の性質上、板状や棒状の形に加工したい際に適しています。

・転造

転造ダイスと呼ばれる、目的の形状に対して反転した凹凸を持つ工具を材料に押し付け、転写するように加工を行うのが転造です。工具のローレット加工や歯車などの成形に使われています。

・押し出し

押し出しは、ところてんのように材料を小さな部屋から押し出し、一定の断面を持つ長い形状にする加工です。固体の材料に圧力を加えて強引に変形させるため、アルミや銅など比較的柔らかい素材に適しています。
アルミサッシのフレーム、航空機部品などの加工に使われています。

・引き抜き

押し出しとは逆に、材料を引っ張って細い穴を通し、目的の断面を持つ長い形状にする加工です。ワイヤーや角材、パイプや鉄筋などの製造で用いられます。

加工温度による塑性加工の種類

塑性加工は、加工時の温度でも複数の種類に分けられます。ここでは、塑性加工の加工温度による分類と、それぞれの特徴をご紹介します。

・熱間塑性加工

金属は熱すると抵抗が小さくなり、引き伸ばしやすくなります。この性質を利用して小さな力で加工を行うのが、熱間塑性加工です。材料の組織が再結晶する温度以上の高温(約1,000~1,200℃)で加工を行います。硬度が高く、熱さないと変形が難しい素材でも用いられる方法です。

複雑な形状の製造が行える点がメリットですが、熱膨張と冷却によって体積が変わるため、厳密な寸法精度が求められる場合には適していません。

・冷間塑性加工

材料を加熱せずに加工する方法です。ただし、加工時は摩擦や素材に加えられる圧力によって、温度が多少上昇します。
熱間塑性加工に比べて寸法精度に優れ、表面状態も良好なまま保てるのが特徴です。
一方、変形抵抗が大きく加工には大きな力が必要で、加工によって硬化が起こる点にも注意しなければなりません。

・温間塑性加工

材料に熱を与えるものの、熱間塑性加工ほどの高温にはせず、組織の再結晶温度以下(約600~850℃)まで加熱して加工する方法です。組織の変性による脆化を防ぐ目的で行われ、高張力鋼板(ハイテン)などで用いられています。
材料の予熱が必要で設備も高額など環境整備のハードルが高く、限られた目的でのみ使われる加工です。

塑性加工の特徴

塑性加工は、その他の加工と比較してどのような特徴を有しているのでしょうか。塑性加工のメリットとしては、以下が挙げられます。

・材料の歩留まりがいい

塑性加工では、材料に力を加えて変形させることで目的の形を作ります。そのため、切削加工のように大量の削りカスが出ることはありません。投入した材料がそのまま製品に形を変えるため、歩留まりが良く低コストで加工できます。

・大量生産に適している

塑性加工は金型を用いて行う加工がほとんどで、形状の再現性や生産性が高いです。同じ形状のものを大量生産する用途に適しています。

・材料の強度アップが可能

塑性加工によって材料を変形させると、材料内部の残留応力を逃せるため、素材強度が低下する原因を取り除けます。残留応力とは、材料を作る段階で材料の内部に残った応力のことです。材料の強度を落とす原因になる場合があります。

塑性加工を続けた金属は、次第に硬さが増していく「加工硬化」を起こすため、鍛造に代表されるように、加工硬化を利用した強度の向上も可能です。

塑性加工のデメリット

塑性加工はメリットだけでなくデメリットもあるため、加工の際は注意が必要です。塑性加工のデメリットとしては、以下のような点が挙げられます。

・加工に必要な設備のコストが大きい

金属に無理やり力を加えて塑性変形させるため、大きな圧力をかけられる機械や、加熱装置などの設備を整えなければなりません。
また、金型の製作コストやメンテナンスコストなど、加工に必要なコストも大きくなります。金型ができるだけ長く使えるような工夫が必要です。

・精密さが求められる加工は得意ではない

切削加工と比較して寸法精度は低いので、精密な加工には向きません。精密さが求められる部品では、大まかな形状を塑性加工で整えて細部を切削加工で仕上げるといった、複合的な方法で加工を行う場合もあります。

また、塑性加工によって加工物が破損する恐れもあります。加工物がどこまで曲げられるのかを把握したり、加工にかける力を検討したりすることも重要です。

・割れやすい状態になる

塑性加工を続けると金属は硬くなりますが、ひずみや転位が蓄積されて脆さが増します。針金のような細い金属を曲げ続けると、簡単に折れてしまう現象をイメージすると分かりやすいでしょう。

加工硬化によるひずみを回復するには、焼きなましを行わなければいけません。焼きなましを行うと、脆くなった金属が再び硬く強い状態になる「再結晶」を起こすことができます。

加工物に適した加工を選択することが大切

塑性加工は、金属の持つ塑性という性質を利用した加工方法です。素材の強度を向上させることにつながり、大量生産にも適するなどのメリットがあります。ただし、精密な加工には向かず設備コストもかかるなど、すべての加工に対応できるわけではありません。
塑性加工の特徴を理解し、適した加工を選択できるようになりましょう。

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