ミストコレクタとは? 種類と設置方法を理解して工場内の環境を守ろう!

ミストコレクタとは? 種類と設置方法を理解して工場内の環境を守ろう!

工作機械を使用して加工を行う工場内では、粉塵やガスなどが発生しており、対策をとらないと作業環境は悪化していきます。工場内における、作業環境悪化の原因のひとつが「オイルミスト」です。
オイルミストを吸引して空気を浄化するには、「ミストコレクタ」と呼ばれる装置が欠かせません。ここでは、ミストコレクタの概要や種類、設置方法などをご紹介します。

ミストコレクタとは

生産活動を行う工場では、多くの環境要因が発生します。そのひとつが、機械の使用時に発生するオイルミストです。オイルミストとは、空気中に飛散する微粒子状の油のことで、切削油(クーラント)が工作機械の動作によって飛散することで発生します。特に、高圧クーラントを使用した加工や、高速切削加工などで、大量に発生することが多いです。
切削加工中に発生したオイルミストを放置すると、人体や作業環境に影響を及ぼす恐れがあるため、適切に処理する必要があります。

そのオイルミストを吸引し、空気と分離するための装置がミストコレクタです。ミストコレクタは、オイルミストによる作業環境の悪化や、外部への有害物質の流出を防止する役目などを果たしています。

オイルミストが引き起こす問題

旋盤やフライス盤などによる切削加工では、摩擦の防止や冷却といった目的で、切削油を使用するのが一般的です。この時、切削油は熱や工具の回転によって微粒子化して、オイルミストとなります。また、高い圧力を発生させる油圧装置でも、オイルミストが発生します。これは、シリンダーのシールから微細な作動油が漏れ出て、空中に浮遊するためです。
オイルミストは人体や環境に対し、以下のような影響を与える恐れがあります。

・健康被害

飛散したオイルミストは、人体に影響を与えます。オイルミストが目に入ったり、皮膚に触れたりして引き起こされる、目や皮膚の疾患が一例です。
また、頭痛や不快感など、オイルミストを吸引することで体調に影響を及ぼすケースもあります。

・労働災害や製品の汚染

オイルミストが工場内の壁や床に付着すると、場内が汚れるだけでなく、床にオイルが付着して滑りやすくなります。作業者が転倒して労働災害につながる恐れもあり危険です。
さらに、場内にある材料や完成した製品が汚染される可能性もあります。

・工場内の機器や部品の劣化

工場内の機械や設備、制御盤にオイルミストが侵入し、電子機器がショートする恐れがあります。
電子機器だけでなく、ゴムやビニール、樹脂製部品の劣化、金属の腐食を引き起こして部品が使えなくなるなど、作業に影響を与える可能性が高いです。

・空調設備の機能低下

空調機器のフィルターにオイルミストが吸着され続けると、フィルターの機能低下が早まり、寿命も短くなります。
空調のファンを回転させるのに多くの力が必要になる、フィルター詰まりが原因のメンテナンスが増えるなど、空調設備の維持管理コストの増加にもつながります。

・工場内外の環境悪化

工場内に靄が発生して視界が悪くなったり、オイルミストが流出して近隣地域の環境悪化につながったりする可能性もあります。
また、一般的な工場で可燃性のオイルを使用する機会はほとんどないと思われますが、火災や爆発のリスクも捨てきれません。

ミストコレクタの種類

オイルミストによる問題の発生を防ぐには、ミストコレクタが必須です。ミストコレクタは、油分を分離する構造によっていくつかの種類に分けられます。
種類ごとの特徴を知っておけば、ミストコレクタを選定する際に役立つでしょう。

・フィルター式

ファンの力でオイルミストを吸い込み、フィルターに通してろ過することで、空気をきれいにする方式です。ろ過したオイルミストは、装置の下部にあるドレンから排出されます。フィルターは何重にもなっていて、段階的に油分を除去する手法が一般的です。

フィルター式のミストコレクタは、構造がシンプルで、コンパクトかつ軽量なため、取り扱いや設置が簡単です。本体価格も安価で導入コストを抑えることもできることから、多くの工作機械に使われています。
ただし、フィルター交換を怠ると目詰まりが発生する恐れがあるため、維持コストがかかります。取り外したフィルターは産業廃棄物になる点にも注意が必要です。

・遠心分離式

遠心分離式は、オイルミストを含んだ空気を高速回転させ、遠心力で空気と油分に分離する方法です。慣性式とも呼ばれます。フィルター式と同様に構造がシンプルなので、比較的安価に導入できます。フィルターを使わないため、フィルター交換などのメンテナンスの手間がかからず、廃棄物が出ない点もメリットです。
しかし、1μm以下のミストは除去できないため、微細なオイルミストが発生する場合は、他のミストコレクタを選定する必要があります。

・電気集塵式

オイルミストにコロナ放電を行うことで帯電させ、電極の静電気でオイルを吸着する方式のミストコレクタです。電極は洗浄すれば再利用できるため、産業廃棄物を出す心配がありません。また、1μm以下の微細なミストも捕集できます。

ただし、高電圧を使用するため取り扱いには注意が必要で、他の方式に比べるとミストコレクタ自体も高価です。

ミストコレクタの設置方法

ミストコレクタは、設置方法によってオイルの除去効率が異なります。工作機械や場内の条件によって、設置場所や方式を使い分けることが重要です。
ミストコレクタの設置方法の種類としては、以下のものが挙げられます。

・直接吸気方式

工作機械から発生したオイルミストを、直接吸気する設置方法です。ミストコレクタは工作機械の上部や側面に設置し、ダクトで連結することでオイルミストを効率的に吸引します。
マシニングセンターや複合加工機など、加工を行う部分が密閉された工作機械で使われることが多いです。

・局所吸気方式

オイルミストの発生源付近にフード状の吸引口を設置して、ミストを集める方法です。研削盤や汎用旋盤のような、加工部を密閉できない工作機械で使われます。
吸引口の大きさや形状、設置方法が吸気性能に大きく影響するため、設置時にはミストの流れる方向や空気の吸い込み速度などを十分に検討する必要があります。

・広域吸気方式

工場内にミストコレクタを設置し、作業を行う空間全体から吸気を行う方法です。直接吸気や局所吸気だけでは、オイルミストを除去しきれない場合に使われます。
ミストコレクタ機能を備えている空調機を設置して工場内の空気を集める方法と、小型のミストコレクタを複数設置する方法に分けられます。

ミストコレクタの選定で重要な風量計算の方法

ミストコレクタを選定する際は、構造に加えて、「ミストの吸引にどれくらいの風量が必要なのか」を考えることが重要です。必要な風量の計算方法は、工作機械の加工部がカバーで覆われているかによって異なります。

【加工部が覆われている場合】

加工部がカバーなどで覆われていて、気密性が高い場合は、以下の計算式で大まかな必要風量を計算できます。

必要風量(m3/min)=加工部の容積(m3)×1分間にカバーを開く回数(換気回数)

換気回数は、カバーの開閉頻度やミストの濃度によって数字を調整する必要があります。カバーを頻繁に開いたり、ミストの濃度が濃かったりする場合は、数字を大きく設定してください。

【加工部が開いている場合】

研削盤や汎用旋盤など、加工部が覆われておらず、オイルミストの発生源が露出している場合は、以下の計算式で必要風量を計算します。

必要風量(m3/min)=加工部の開口面積(m2)×加工部の風速(m/s)×60

上記の式で出した必要風量はあくまでも目安です。稼働時間が長い、切削油の温度が高いなど、加工条件によっても必要風量は変わるため、詳細はメーカーに問い合わせることをおすすめします。

ミストコレクタを設置する際の注意点

ミストコレクタは、適切に設置しないと油をまき散らしたり、火災につながったりする恐れがあります。ミストコレクタを設置する際は、以下の点を確認しておきましょう。

・ドレンホースの取り付け方のポイント

ミストコレクタを設置する際は、ドレンホースが途中で折れたり、つぶれたりしないように設置しましょう。ホースが折れた部分にドレンが詰まってしまい、油が漏れたり、吹き出したりする原因になります。

また、ドレンホースの先端部はドレン受け(クーラントタンク)内部にためた水やクーラントなどの液体につけて液封することもポイントです。ミストコレクタによっては、ドレンの排出口が負圧(内部の空気が外圧より低い状態)になってしまい、切削油が排出されずにたまってしまう恐れがあります。

ただし、商品によっては液封せずに使える設計になっている場合もあります。具体的な設置方法については、メーカーのホームページや取扱説明書などをご確認ください。

・消火装置の設置も必須

油性の切削油を使用したり、発火する恐れのある材料を加工したりする際は、火災対策も必須です。油性の切削油を使用する工作機械にミストコレクタを取り付ける際は、燃焼防止のために防火ダンパーを必ず設置してください。
防火ダンパーを設置すれば、火災が発生しても燃え広がるのを防ぐことができます。

ミストコレクタで安心・安全な作業スペースを確保しよう

オイルミストは工場内や製品の汚染、機器・設備の故障、人体への悪影響、環境汚染など、さまざまな問題を引き起こす恐れがあります。大量の切削油を使用する加工や、大型油圧装置を使用する工場内では、オイルミストを確実に除去するための設備も必要です。
ミストコレクタを適切に使用し、安全な作業スペースを確保しましょう。