マグネシウム合金の基礎知識。用途や安全に加工するための注意点を解説

マグネシウム合金の基礎知識。用途や安全に加工するための注意点を解説

マグネシウム合金は、さまざまな優れた特性を持つことから、急速に需要が伸びている金属素材です。しかし、加工の際はリスクもあり、安全確保を行いながらの作業が求められます。マグネシウム合金を安全に加工するためには、どのような点に注意すれば良いのでしょうか。ここでは、マグネシウム合金の特徴と用途、加工時の注意点などをご紹介します。

マグネシウム合金の特徴

マグネシウム合金には多くの利点があり入手も容易なため、さまざまな分野で注目されています。マグネシウム合金は、具体的にはどのような特徴を持つのでしょうか。

・軽量ながら強度や剛性に優れる

マグネシウム(Mg)の比重は鉄の1/4、アルミニウムの2/3と小さく、実用金属の中では最も軽量です。比重に対する強度や密度に対する剛性を表す比強度・比剛性はアルミニウムや鉄より高いため、強度も確保できます。軽さと強度を両立できる点から、スマートフォンやノートパソコンのようなモバイル端末の軽量化にも大きく貢献しています。

・振動吸収性が高い

マグネシウムは、実用金属の中で最も高い振動吸収性(減衰性能)を備えています。振動吸収性とは、振動を受けた際にその力を吸収、または放出する力のことです。マグネシウムは純度が高いほど、振動吸収性が大きくなります。 振動を吸収できるという性質から、ハードディスクや自動車のホイールなど、回転により生まれる振動を減らしたい部分で活躍しています。

・電磁波の遮断性が高い

電磁波とは、光や放射線、電波などの総称です。マグネシウム合金はこの電磁波の遮断性にも優れていて、20~200MHzの帯域で、90~100dB(デシベル・電磁波がどの程度減衰したかを相対的に示す数字)程度のシールド性能を発揮します。

・寸法の変化が少ない

比熱が小さく放熱性に優れていて、熱しやすく冷めやすい点も特徴です。また、寸法安定性に優れているという性質もあります。150℃に加熱した状態で100時間経過しても寸法の変化量は小さく、100℃以下ならほとんど変化しません。

・耐くぼみ性を持つ

加工硬化率が高く、耐くぼみ性にも優れています。加工硬化とは、金属に力を加えた際に、塑性変形によって硬くなる現象です。そのため、物体が衝突してできるくぼみは、アルミニウム合金などに比べて小さくなります。

・切削性に優れる

マグネシウムは鉄やアルミニウム合金などに比べ切削抵抗が小さく、切削加工がしやすい金属です。切削所要時間が小さく、工具寿命も長くできます。

・リサイクルが可能

マグネシウムは海水から精製できるため資源として入手しやすい金属です。また、マグネシウムは低温で溶解するため、新塊製造時の4%ほどのエネルギーでリサイクルして再利用できます。

マグネシウム合金の欠点

さまざまなメリットを持つマグネシウムですが、欠点もいくつか持ち合わせています。マグネシウムの代表的な3つの欠点は、以下の通りです。

・燃えやすい

マグネシウムは発火しやすいという特徴があり、特に細かい状態だと簡単に燃えてしまいます。また、燃えているマグネシウムに水をかけると、激しく燃焼したり水素爆発を起こしたりする危険性もあります。

・耐食性が低い

マグネシウムは腐食しやすいのも欠点のひとつです。塩分や不燃性のガスがある環境下では急激に腐食が進みます。そのため、防錆を目的とした表面処理が欠かせません。

・成型加工が難しい

加工硬化率が高く耐くぼみ性に優れているという特徴を持つ一方で、割れやすくプレスや鋳造、鍛造といった成型加工は難しいという側面も持ちます。

マグネシウムの作り方

マグネシウム合金の元となる地金の製造方法は、大きく電解法と熱還元法に分けることができます。電解法は、海水などを原料に塩化マグネシウムを取り出し、それを電解してマグネシウムを生成します。一方で、熱還元法はドロマイト鉱石と呼ばれる素材を原料に、含まれた酸化マグネシウムに還元剤を添加して、高温で加熱還元してマグネシウム地金を精錬する方法です。 この地金を溶解したものに元素を添加することで、マグネシウム合金が作られます。

マグネシウム合金の種類

マグネシウムは、そのままだと腐食しやすいという欠点があるため、元素を添加して特性を変化させたマグネシウム合金を使用するのが一般的です。 マグネシウム合金は加える元素によって異なる性質を発揮し、元素の組み合わせによって系列分けされています。Mg-Alの合金の場合AM系、Mg-Al-Znの合金はAZ系、Mg-Zn-Zrの合金はZK系など、対応する元素記号との組み合わせで表す米国材料試験協会の表記方法が普及しています。添加する元素ごとに、Alは強度向上、Znは鋳造性向上、Mnは耐食性向上、Agは耐熱強度上昇などの異なる性質を持たせることが可能です。 また、添加する元素の種類に応じて、鋳造用合金と展伸用合金に大きく分けられます。

マグネシウム合金の用途

軽く強度に優れる、加工性が高い、振動吸収性に優れる、リサイクルできるなど、多くの特性を備えているマグネシウム合金は、日常の幅広い場所で使用されています。自動車のステアリングホイールやエンジンブロック、航空機部品、ノートパソコンやスマートフォンなどの電子機器、車椅子や杖のような福祉用品などが一例です。他の金属を使用するよりも軽量化が図れることから、使用用途は年を追うごとに増えています。

マグネシウム合金を切削加工する際の注意点

マグネシウムは切削抵抗が小さいのが特徴の金属です。マグネシウムの切削抵抗を1.0とした場合、アルミが1.8、鉄は6.3となります。しかし、被削性が高い一方で、加工の際には注意が必要な点もあります。マグネシウムの切削加工を作業全体で見たとき、高効率を実現するためには環境や手順の整備が欠かせません。

・切削油には鉱物油を用いる

マグネシウムの切削加工で注意しなければならないのは、マグネシウムの持つ燃焼性です。

・大気中の窒素と反応し、窒化マグネシウムを形成する。窒化マグネシウムは、水と激しく反応し高温を発生する
・燃焼中のマグネシウムが水に触れると、水が分解され水素と酸素を発生する
・高温水や塩化物を含む水溶液中で水と反応し、水素を出しながら水酸化マグネシウムを形成する

これらの化学反応から、マグネシウム合金の切削加工に一般切削用の水溶性切削油を使用は避ける必要があります。水溶性切削油の水分とマグネシウムの切り屑が触れることで、火災や爆発事故が発生する恐れがあるためです。事故防止のために、マグネシウムの切削の際は一般切削用の水溶性切削油ではなく、鉱物油系かマグネシウム切削用の切削油を使用しなければなりません。

・切り屑を出さない、残さないようにする

マグネシウムの切り屑は、空気中の酸素や水分とも反応する可能性があります。送りや切込みを小さくしない、切れ刃を被削材に食い込ませたまま送りを停止するのは避ける、微細な切り屑が出ない切削条件を設定するなど、薄い切り屑や微粉をできるだけ出さない加工を行いましょう。また、排出された切り屑を工作機械の周囲に放置せず除去し、金属製の容器に入れて離れた場所に移動するなど、ルールと環境の整備も必須です。

・専用の消火剤を用意しておく

マグネシウムが発火した場合は、前述のように爆発や再燃焼の恐れがあるため、水の使用は基本的には厳禁です。通常のガス消火器や液体消火器なども、消火剤が高温で水を発生するため使用できません。
万が一の事態に備えて、マグネシウム用に乾燥砂やフラックス、パーライト、金属火災用消火剤など、専用の消火剤を用意しておくことが大切です。

マグネシウム合金の加工は注意して行おう

マグネシウム合金は軽量で強度もあり、精製が容易でリサイクル性も高いことから、さまざまな分野で使われている素材です。切削性も高いですが、火災や爆発などの事故につながる危険を伴うものでもあります。マグネシウム合金の加工は、切削油の選定や切り屑処理などの注意事項、安全な作業手順を踏まえたうえで行うことが重要です。