切削工具の「インサート」とは? 加工現場で使われるインサートの意味

切削工具の「インサート」とは? 加工現場で使われるインサートの意味

切削工具の中には「インサート」を取り付けて使用するものがあります。インサート(挿入する)はさまざまな場面で見かける単語ですが、切削工具におけるインサートとはどのようなものなのでしょうか。
この記事では、切削工具におけるインサートの特徴や選定時のポイントに加えて、加工の現場におけるインサートという言葉の使われ方をご紹介します。

インサートとは

インサートとは、刃先交換式の切削工具に取り付ける刃先のチップのことです。「インサートチップ」や「スローアウェイチップ」とも呼ばれます。
チップと土台が溶接されている付刃バイトは、刃先に摩耗・欠損が発生するたびに、研磨して切れ味を取り戻さなければいけません。研磨の角度や精度によって切れ味が変わるため、作業には技術が求められます。
一方で、インサート工具は刃先を簡単に交換できるので、作業者の熟練度に関わらず切れ味を再現できます。刃先を交換することで、さまざまな被削材に対応できる点もメリットです。

インサートチップに使われる材質の種類

インサートチップは、さまざまな素材から作られています。ここでは、インサートチップに使われる代表的な材質と、それぞれの特徴をご紹介していきます。

・超硬合金

超硬合金とは、WC(タングステンカーバイド)とCo(コバルト)で構成される合金のことです。WC粉末とCo粉末を混ぜ合わせて金型でプレスし、焼結することで作られます。
WC粉末の粒度(大きさ)とCoとの配合量を変えて、性質を変化させられる点が超硬合金の特徴です。超硬合金チップは材種からP・M・K・N・S・Hの6種類に分類され、被削材によって使い分けられています。
Pは鉄鋼、Mはステンレス鋼、Kは鋳鉄、Nは非鉄金属やアルミニウム合金、Sはチタン合金や耐熱合金、Hは高硬度材料や焼入れ鋼向けです。
また、Pは青色、Mは黄色、Kは赤色、Nは緑色、Sは茶色、Hは灰色と識別色が決められていて、インサートチップもケースに識別色が印刷されていることが一般的です。

・PCD

天然に存在する物質の中で最も硬いダイヤモンドは、熱伝導率が高いことから切削工具の刃先にも適しています。ダイヤモンドの性質を生かし、人工的に作られた切削工具用の素材がPCD(ダイヤモンド焼結体)です。ダイヤモンド粉末を金属やセラミックスなどと一緒に、極めて高温・高圧下で焼き固めることで作られます。
PCDは、小さなダイヤモンドが結合した「多結晶ダイヤモンド」に分類される素材で、あらゆる方向からの力に強く、割れにくいのが特徴です。アルミニウム合金や銅合金、超硬合金では切削しにくい石材、ガラス、プラスチックなどの非金属材料の加工が可能で、超硬合金の加工にも使用されます。
ただし、ダイヤモンドは鉄との親和性が高いという特徴を持っています。化学反応を起こすため、一般の鉄系金属に使うことはできません。

・CBN

CBN(Cubic Boron Nitride)は、ホウ素と窒素を共有結合させた物質で、自然界には存在しない人工物です。開発当初の商品名から「ボラゾン」と呼ばれることもあります。
ダイヤモンドに次ぐ硬さを持ち、耐熱性はダイヤモンドより高いのがCBNの特徴です。鉄との親和性は低いので、鉄鋼や鋳鉄、焼入鋼といった鉄系金属にも使用できます。

・サーメット

サーメットは、チタンやタンタルを主成分として作られた材質です。耐食性が高く鉄との親和性は低いため、鉄系金属を加工した際に、刃先に削り粉が溶着しにくいという特徴を持ちます。
一方、衝撃に弱く欠けやすい点に注意が必要です。水溶性の切削油を使ってフライス加工を行うと、刃先にクラックが発生する恐れがあります。

インサートチップ選定のポイント

インサートチップは、加工内容に適したものを使用することが重要です。インサートチップ選定のポイントとしては、以下の点が挙げられます。

・インサートチップの材種

どのような材種のインサートチップを加工で使用するかは、被削材の種類から決める必要があります。
識別色が表示されている他、型番から適している被削材を判別できる場合も多いため、事前に確認しておきましょう。

・インサートチップの形状(刃先角度)

インサートチップの刃先の形状には、さまざまな角度があります。強度や加工効率に関わるので、適切な形状のインサートチップを用意することが大切です。
刃先角度(コーナー角)が大きいとチップの強度は高くなりますが、ビビリが発生しやすくなり、機械の出力も求められます。
反対に、刃先角度が小さいとチップの強度は低くなりますが、切削抵抗は小さくなります。

・サイズ

インサートチップのサイズは、加工に求められる条件と、加工時に切削工具が入り込めるスペースに合わせて決める必要があります。例えば、サイズが大きいチップほど剛性は高くなりますが、入り込めるスペースが限られてしまいます。 仕上げ加工では、小さなサイズのチップを使うのが一般的です。

・ノーズR

ノーズRも選定のポイントです。ノーズRが小さいインサートチップは、浅い切り込みに適しています。ビビリが起こりにくく、切り屑の処理性も良好ですが、刃先の強度は落ちます。
反対に、ノーズRが大きいインサートチップは、送り速度を上げることができ、深い切り込みでの加工も可能です。刃先強度も高くなりますが、切削抵抗が大きくなる点には注意しなければなりません。

・逃げ角(ポジ・ネガ)

逃げ角が0°より大きいものはポジ、逃げ角が0°のものはネガと呼ばれます。それぞれ特徴があり、加工に応じて選定する必要があります。
ポジのインサートチップは、角度が付いていて片面しか使えないものの、切削抵抗は低くビビリが起きにくいのが特徴です。切れ味に優れていて、高い寸法精度できれいに仕上げられます。
ネガのインサートチップは刃先強度が高く、外径旋削や重切削に向いているのが特徴です。両面使えるものが多く流通しています。

チップ以外の「インサート」の意味

「インサート」という言葉は、刃先交換式の切削工具のチップではなく、部品や加工方法を指して使われることもあります。切削工具のチップ以外の主な「インサート」の意味は、以下のとおりです。

・ねじインサート

ねじインサートは、柔らかい材料に切られためねじを補強するための部品です。「インサート」や「ヘリサート」と呼ばれることもあります。
比較的柔らかく、機械的強度の低い材料にめねじを作ると、めねじが潰れやすいため強い締結力が得られません。ねじインサートを活用すれば、母材の材質をそのままに、めねじの強度を高めることが可能です。
また、潰れてしまっためねじに取り付けて修復するといった使い方もできます。
ねじインサートの詳細は、以下の記事も併せてご確認ください。
⇒ヘリサート(ねじインサート)とは? 加工に役立つ下穴深さの考え方

・インサートナット

プラスチック素材に埋め込み、素材同士の結合を強化するための部品です。金属素材よりも機械的強度に劣るプラスチックに取り付けることで、ジョイント部を強化して素材同士を外れにくくできます。
インサートナットは、プラスチックの成型時に埋め込むタイプと、成形後に埋め込むタイプに大別されます。

・インサート成形

インサート成形とは、金型にあらかじめ金属のネジや端子などを入れておき、そのまわりにプラスチックを注入することで、金属部品とプラスチックを一体に成形する加工方法のことです。
組み立て工数やリードタイムを短縮したり、製品の機能性を向上させたりできる点が、メリットとして挙げられます。プラスチック製品の強度を高めることも可能です。
主に、コネクタやスイッチ、ドライバといった製品の製造で使われています。

加工目的に合わせ適したインサートチップを選ぼう

インサートチップは、刃先だけを交換できるのが特徴です。付刃バイトとは異なり、研磨の技術がなくても簡単に切れ味を再現することができます。
ただし、インサートチップは材質や形状の異なるものが多くあります。効率的に精度の高い加工を行うためには、被削材や切削用途に適したインサートチップを選ぶことが重要です。
また、スローアウェイ工具を用いる場合は、チップ自体も他の工業製品と同じように公差が適用されていることを認識してください。
チップの大きさや厚み、ノーズRの距離など、それぞれに公差があります。コーナーチェンジおよびチップ自体を交換した際には、刃先位置のオフセット(確認調整)が必要です。
オフセット作業を怠ると、チップの刃先位置が微妙にずれて加工精度の確保が困難になり、不良が発生する恐れがあるのでご注意ください。

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