高速度工具鋼とは? 特徴や使用時の注意点を解説

高速度工具鋼とは? 特徴や使用時の注意点を解説

高速度工具鋼またはハイス鋼とは、切削工具をはじめとした、さまざまな工具に使われている材質のことです。しかし、高速度工具鋼がどのような特性を持つ材質なのか、理解できていない方もいらっしゃるかもしれません。実際に工具として高速度工具鋼を使用する場合は、メリットやデメリットを知っておく必要があります。
この記事では、高速度工具鋼の特徴や種類、適している加工、超硬合金との違いについて解説します。

高速度工具鋼(ハイス鋼)とは?

高速度工具鋼とは、名前の示す通り、高速切削を可能にするため開発された材質です。「高速度」での切削加工が行える「工具鋼」という意味で名付けられました。英訳すると「ハイスピードスチール(High Speed Steel)」になることから、ハイスピードを略してハイス鋼やハイスと呼ばれることもあります。
靭性が高く加工も容易なのが特徴で、一般的な切削工具や汎用工具の材質として普及しています。

また、高速度工具鋼には2種類の製造方法があり、種類に応じて「粉末ハイス鋼」と「溶解ハイス鋼」と呼び分けられています。
粉末ハイス鋼は、粉末状の材料を加圧しながら焼結することで成形したものです。靭性や耐摩耗性に優れ、工具寿命も長いのが特徴です。一方の溶解ハイス鋼は、電気炉で原料を溶かしたあとに圧延して成形したもので、コストの面で優れます。
工具材質としては、靭性や耐摩耗性に優れる粉末ハイス鋼が主流となっています。

高速度工具鋼の種類

高速度工具鋼は、添加されている物質の比率からタングステン系とモリブデン系の2種類に大きく分けられます。ここでは、それぞれの違いについて説明します。

・タングステン系

タングステン系に分類されるのは、11.5%~19%のタングステンを添加した鋼です。およそ18%のタングステンを添加したものが主流となっています。タングステン系の高速度工具鋼(ハイス鋼)には、モリブテンは含まれていません。
代表的な鋼種としては、SKH2やSKH3、SKH4、SKH10などが挙げられます。硬度と耐摩耗性に優れ、切削工具に多く使われています。

・モリブデン系

Mo(モリブデン)を添加した鋼は、モリブデン系に分類されます。5%ほどのMoと6%ほどのタングステンが添加されています。タングステン系に比べて靭性が高く、粘り強さを持つのが特徴です。硬度はそれほど高くないですが、衝撃のかかる高硬度材に対応する切削工具として使われています。

高速度工具鋼と超硬合金の違い

高速度工具鋼と超硬合金は、どちらも切削工具としてよく使われる材質です。名前の響きから、超硬合金よりも高速度工具鋼が高速切削を行えるイメージを持ちやすいものの、実際は逆です。

超硬合金で作られた超硬工具の方が、高速度工具鋼よりも短時間で切削加工を行えます。これは、超硬合金は高速度工具鋼よりも後に開発された材質で、高速度工具鋼を超える硬度を備えるように作られているのが理由です。
現代の感覚では、高速度工具鋼は「開発当時は高速度での切削加工が可能だった工具鋼」と表現するのが適切かもしれません。硬度や耐熱性に関しては、超硬合金以外にも、さらに優れた多くの材質が開発されています。

ただし、超硬合金と比較した場合、靭性は高速度工具鋼の方が優れているため、欠けや折損に対する耐性が高いです。チッピングの耐性が求められたり、工具の購入コストを抑えたりしたい場合は、超硬合金よりも高速度工具鋼が適しています。

ハイス鋼を使用する際の条件

高速度工具鋼の切削工具は、使用する際に注意しなければならない点がいくつかあります。中でも特に注意しなければならないのが、加工時に発生する熱の問題です。

高速度工具鋼は約600℃で急激に硬度低下が起こります。工具としての性能が低下してしまうので、切削熱が高くならないように切削速度を抑えながら加工をしなければいけません。一般的には、切削熱を抑えて加工できる回転数は30m/min以下が理想とされています。
また、切削加工時の冷却も重要で、切削油の使用を求められる点にも注意が必要です。

材質に適した使い分けを行おう

高速度工具鋼は、従来の工具鋼を改良して開発された工具材質です。当初は高速切削を可能した材質だったものの、さまざまな材質が開発されたこともあり、現代はさらに高速な切削加工が行える工具材質は多くあります。
また、切削工具の材質の中では耐熱性が低い点にも注意が必要です。工具材質全体の中で見ると、高速切削に向いている工具材質とはいい難いかもしれません。

一方で、靭性に優れていてチッピングが起こりにくく、低コストで入手しやすい点は、高速度工具鋼のメリットといえます。
加工を効率的に行うためには、工具材質のメリット・デメリットを確認したうえで、材質や加工条件、求める仕上がりなどに適した工具を使い分けることが大切です。