溝加工とはどんな加工?加工の種類や課題ごとの対策方法を解説

溝加工とはどんな加工?加工の種類や課題ごとの対策方法を解説

切削加工によって溝を作る加工は、「溝加工」と呼ばれます。金属加工では、部品の設計によって溝の形状が複数の種類に分けられ、それぞれ加工方法も異なります。精密な溝加工を行うためには、加工の種類ごとの特徴や、加工時の注意点を押さえておくことが大切です。
この記事では、溝加工の特徴や使用する工具、加工時の課題と対策などをご紹介します。

溝加工を行う目的

溝加工とは、部品の設計に添って被削材に溝を彫る加工のことです。組み合わせる部品同士の位置決めや、部品を取り付ける場所を設けるために行います。
例えば、回転軸に別の部品を取り付ける場合、そのまま部品に軸を通してはめ込んでも、回転時の慣性や回転にかかる負荷によって空回りしてしまいます。
しかし、回転軸と取り付ける部品に溝加工を施して組み合わせれば、両方が確実に固定された状態になって空回りを防ぐことが可能です。
このように、溝加工は回転の力を伝えたり、部品同士を確実に組み合わせたりする重要な役割を持っています。

溝加工の種類

溝加工は、彫る溝の形状や使用目的などから、複数の種類に分けることができます。キー溝加工やT溝加工、アリ溝加工、スプライン加工などが、代表的な溝加工の例です。
加工には、フライス盤やマシニングセンタ、スロッター、ブローチ盤などの工作機械が使われ、それぞれ加工方法や使用する切削工具も異なります。
ここでは、代表的な溝加工の特徴と、フライス盤で加工する場合に使用する切削工具をご紹介します。

・キー溝加工

キー溝加工は、機械部品をはめ込むための「キー溝」を内径と軸径に作る加工です。キー溝の断面は四角形で、はめ込んだ部品がずれないようにする役割を持ちます。組み立て時の位置決めにも活用できますが、一部を削って溝を作るため、切削した場所の強度低下や、応力集中による破損のリスクが高まる点には注意が必要です。
フライス盤で加工する場合は、側フライスや溝フライス、エンドミルといった切削工具を使用します。エンドミルによるキー溝加工は、縦方向の切り込み量を抑えて段階的に切り下げていくか、円弧状の軌道を描くようにエンドミルを横方向に動かすと、刃先にかかる負荷を一定にすることが可能です。

・T溝加工

断面がアルファベットの「T」を逆さまにしたような形状に見える、「T溝」を作る加工です。下部の広くなっている部分にナットやボルトの頭部を入れることで、ねじによる固定が行えるようになります。
フライス盤で加工する場合は、キー溝と同様に、側フライスやエンドミルで1本の溝を彫った後に、「T溝フライス」「Tスロットカッター」と呼ばれる専用の刃物を使い、下部の広い部分を加工します。

・アリ溝加工

T溝は下部の広い部分が四角形なのに対し、「Y」を逆さまにして底辺を平らにしたような見た目をしているのがアリ溝の特徴です。
位置決めステージやシリンダーなど、正確に位置決めしたいものの案内機構として使われます。アリ溝の加工には、「アリ溝フライス」と呼ばれる専用の切削工具を使います。

・スプライン加工

回転軸の外周や取り付ける部品の内周に、嵌合させるための溝を作る加工です。スプラインによる嵌合は、四角形状のキー溝をいくつも施すため、高い強度を持たせることができます。
スプライン加工の際はスロッターやブローチ盤を使用します。

溝加工でよく見られる課題と対策方法

溝という貫通していない形状を加工する溝加工では、特有の課題が発生する場合があります。加工精度や工具寿命の低下、切粉の排出不良などが、溝加工の代表的な課題です。
ここでは、溝加工ならではの課題と、それぞれの対策方法をご紹介します。

・加工面の精度低下

溝加工においては、生産性を高める目的で、一発溝入れのような手法が取られることがあります。一発溝入れでは加工面の仕上げ加工が行われないので、仕上げ精度が低下し、不良が連続発生することも考えられます。
特に、加工面の精度が下がる原因になるのが、ビビリの発生です。深い溝を作る場合は、工具の突き出し量も長くなるため、ビビリが発生しやすくなってしまいます。
ビビリの対策としては、剛性が高い超硬の切削工具や、突き出し量が短い切削工具を使うことが有効です。

・切削工具の寿命低下

深い溝加工は切削工具への負荷が高く、寿命が短くなりやすい点も課題として挙げられます。工具寿命を長くするために、切粉の排出性改善や高性能なクーラントの使用、コーティングの見直しなどを行う必要があります。

・切粉の排出不良

深い溝加工では、切粉の排出も大きな課題のひとつです。逃げ場のない溝の最深部に切粉が溜まりやすいため、切粉の排出不良が原因で、加工精度の低下につながる恐れがあります。
切粉を確実に排出するために、クーラントの適切な供給や切削条件の調整などを行うことが重要です。
また、エンドミルよりも溝フライスの方が切粉の排出性が高いです。切削工具の使い分けといった工夫も、有効な切粉の排出不良対策になります。

キー溝加工の代表的な方法

溝加工の一種であるキー溝加工は、エンドミルやフライス以外の切削工具で加工を行うことができます。キー溝加工の代表的な方法と、それぞれの特徴をご紹介します。

・スロッター加工

工作機械の主軸に取り付けたバイト(切削工具)を上下運動させることで、内径のキー溝を少しずつ削り出す方法です。立て削り盤加工とも呼ばれます。加工物の形状やサイズを問わず、止まり穴加工にも対応できるなど、自由度が高いのが特徴です。
ただし、加工に時間がかかるので、大量生産には向きません。

・ブローチ加工

ブローチと呼ばれる専用の刃物を使う方法です。内径の形状に合わせて専用のブローチを作成し、それを引き抜くことでキー溝を完成させます。
ブローチを引き抜くだけと加工時間が短く、精度のばらつきも少ないため、量産品の加工に最適です。
刃物を引き抜いてキー溝を作るため、止まり穴に対応できない点はデメリットといえます。

・キーシーター加工

キー溝の幅が広い、被削材の外径が大きいなど、大きな製品の加工に適した方法です。
他にも、電気エネルギーを使用する放電加工やワイヤーカットなどでも、キー溝を作ることができます。

適切な加工方法と切削工具を選定しよう

溝加工は、機械の部品製作に欠かせない加工のひとつです。しかし、溝という形状に起因してビビリや切粉の排出不良が発生しやすく、加工精度や工具寿命の低下など、さまざまな課題が発生しやすい点に注意しなければなりません。
加工効率と精度を高めるためには、適切な加工方法や切削工具の選定が大切です。

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