エンドミル加工とは? 切削加工の概要やツールパスの種類、加工時の注意点を解説

エンドミル加工とは? 切削加工の概要やツールパスの種類、加工時の注意点を解説

フライス加工用切削工具の代表格であるエンドミル。エンドミルを使うことでどのような加工ができ、加工においてはどのようなポイントが重要となるのでしょうか。
この記事では、エンドミルとマシニングセンタ(M/C)による切削加工の概要や、エンドミルを使った加工方法の種類、注意点などについて解説します。

エンドミルによる切削加工

フライス切削とは、固定静止する加工物に回転する刃物を押し当て局部的に大きな応力を発生させることで破断させ、不要な部分を切り屑として分離する加工方法です。切り屑を出さない鍛造や圧延、せん断といった加工方法と比較した時、切削加工は塑性変形が少なく高い工作精度が得られるという特徴を持っています。エンドミルによる加工も、この切削加工のひとつです。エンドミルが回転している状態で被削材を固定したテーブルを移動させることにより、切削加工を進めていくのが、エンドミルを使用したフライス盤またはマシニングセンタ(M/C)による切削加工です。

エンドミル加工とは

エンドミルによる切削加工では、具体的にどのような加工ができるのでしょうか。ここでは、エンドミルによる加工の種類や特徴をご紹介します。

1.エンドミルで行える加工の種類

エンドミルにはいくつか種類があり、外周刃と底刃の形状の違いによって行える加工の性質が異なります。

先端部がほぼ平坦で外周刃の重要度が高い、ストレート刃やラフィング刃などの「スクエアエンドミル」は、溝加工や側面加工、コンタリング加工、ポケット加工、座グリ加工が可能です。 先端に向けて先細り形状になっている「テーパ刃のエンドミル」であれば、テーパ加工やリブ加工を得意とします。 先端が半球状になっている「ボールエンドミル」は曲面加工や倣い加工に使われるほか、倣い加工では角部のみR形状になっている「ラジアスエンドミル」が使われることもあります。

2.エンドミル加工の特徴

エンドミル加工には、主に以下のような特徴があります。

・さまざまな加工が可能

エンドミル加工では切削工具の片端のみをフライス盤に固定するため、加工形状が制限されにくいです。複数の形状のエンドミルを使い分けることで、さまざまな加工が行えます。
その反面、加工に適したエンドミルを選定する必要がある、刃を長く突き出した状態で切削加工を行うとビビリやたわみが発生しやすいなどのデメリットもあります。

・高精度で高効率

手動でのテーブル移動に加え、コンピュータ制御による自動切削も可能になったことで、高効率・高精度を実現しています。効率的に精度の高い加工を行うためには適切な切削条件の設定が必要です。

エンドミルの動かし方の種類と特徴

エンドミル加工で使用するフライスは、XYZの3軸の動きで金属を加工できるのが特徴です。エンドミルの描く軌道(ツールパス)を変えることで、さまざまな加工を行えるようになります。
加工法によって加工にかかる時間や工具寿命が異なることもあるため、加工の際は形状や素材に適したツールパスの選定が重要です。
ここでは、コンタリング加工をはじめ、代表的なエンドミルの動かし方と、それぞれの特徴をご紹介します。

1.ヘリカル加工

被削材の壁面に沿って工具を公転させて円軌道を描きながら、軸方向にも切り込むことで穴を作る加工がヘリカル加工です。1公転ごとに少しずつエンドミルを下に移動させて、目的の形状に仕上げます。
エンドミルの径よりも大きい穴や、ドリルでは対応できない径の穴を加工することが可能です。切り屑の排出性に優れており、タップ加工に比べると切削抵抗が抑えられることから、工具の破損のようなトラブルを防ぐこともできます。

・2.トロコイド加工

エンドミルが円軌道を描くように動かしながら、径方向に切り込んでいくのがトロコイド加工です。ヘリカル加工ではエンドミルは円軌道を描きながら上下に動かしましたが、トロコイド加工では円軌道を描きながら前後または左右に動かします。
自由な幅の溝を加工しやすく、幅の狭いポケットを加工する際にも最適です。
刃と被削材が接する範囲が限られるので、直線的に溝加工を行うよりも熱の発生や破損といったトラブルを抑えられます。側刃で加工を行うため、切削速度が高速なのもメリットです。

3.ランピング加工

一般的なエンドミルにも底刃は存在しますがドリルのように穴あけに特化された設計ではないため軸方向のみへの加工は得意ではありません。
しかし最近ではコーナーR付きのラジアスタイプのエンドミルも増え、エンドミルを横送りしながら同時にゆっくりと軸方向へも切り込みが可能なランピング加工も行えるようになっています。動き的にはエスカレータの下りのイメージです。
ドリルで下穴をあけた後にエンドミルを入れて横送りしていた作業がエンドミル単体での作業に置き換えが出来ますのでより能率的です。

4.プランジ加工

プランジ加工(突き加工)は、エンドミルを軸方向に動かし、被削材に垂直に押し当てることで切削する方法です。軸方向に対して切削抵抗がかかるので、振動を抑えられる傾向にあります。
深穴を加工する際は切り屑が排出されにくくなる恐れがあるため、切り屑対策が欠かせません。
また、底刃のないエンドミルだとプランジ加工を行えない点にも注意が必要です。

5.コンタリング加工

被削材の輪郭(Coutour)に沿ってエンドミルを動かし、表面形状を仕上げるのがコンタリング加工(等高線加工)です。曲面や穴径など、製品の輪郭を高精度に仕上げることができます。
切削条件は、側面の加工条件を参考に行いましょう。
また、ダウンカット方向に送ることも重要です。

エンドミル加工の際の注意点

エンドミル加工において、精度が高くきれいな仕上げをするためにはいくつかのポイントがあります。その中でも特に注意したい3つのポイントをご紹介します。

1.アップカットとダウンカット

エンドミルの回転と被削材の移動方向の関係により、切削方法はアップカットとダウンカットの2パターンがあります。

アップカットはエンドミルの回転に対し、被削材は同じ方向に送られます。刃先が食い込むような力が働くため、狙いの加工壁面に対し削りすぎてしまうことも多いです。 また、加工の際に発生する摩擦熱が大きく、エンドミルが摩耗しやすい点にも注意しなければなりません。切削時の抵抗が大きくビビリが発生しやすい反面、光沢のあるきれいな仕上げ面ができます。 一方、ダウンカットはエンドミルの回転と反対方向に被削材を送る方法です。エンドミルが被削材から離れようとする力が働くので、狙いの加工面に対して削り残しが起こりますが、再加工の余裕は残ります。 ただし、刃の食いつきによる衝撃が発生し切削抵抗は上がるため、しっかりとした機械や工具の剛性が必要です。その反面、刃先部の摩耗は少なく工具寿命が長くなるという特徴も持ちます。

2.切削条件の設定

エンドミル加工には、短い切削時間・長い工具寿命・高い加工精度の3要素が求められます。これらをバランス良く満たすには切削条件を設定しなければなりません。 切削条件を計算するためには被削材の材質、エンドミルの材質や外径、刃数などの情報が必要です。これらから送り速度や最適な送り量を求めることで、安定性や効率を高めた加工ができます。

3.エンドミルの形状と長さの種類

エンドミルは加工に支障がない範囲で、できるだけ短いものを使うのが定石です。必要以上に長いエンドミルを使用するとビビリやたわみが発生し、精度の高い加工を行えません。 しかし、エンドミルが長いからといって外周刃の部分をフライス盤に固定すると、刃が欠ける原因となります。 これらを念頭に、行う切削作業に適した長さ・刃数・形状のエンドミルを選ぶことが大切です。

エンドミルはさまざまな加工が行える万能工具

エンドミルは、さまざまな切削加工を行うことができる使い勝手の良い工具です。しかし、正しい知識を持って適切な使い方をしなければ、エンドミルの利点を活かすことはできません。
目的に適したエンドミルと加工方法を選び、切削条件を計算した上で作業を行うことで、精度が高く効率のいい切削加工へと繋がります。