バニシングドリルとは? ドリルやリーマとの違い、使い方を知って加工に生かそう

バニシングドリルとは? ドリルやリーマとの違い、使い方を知って加工に生かそう

バニシングドリルは、よく目にする一般的なドリルとは異なる形状が特徴で、使い方次第で大幅に加工時間を短縮できるマルチタスクな切削工具です。この記事では、穴をあけるだけではなく同時に研磨も行える便利な切削工具であるバニシングドリルの特徴や種類、使い方のポイントをご紹介します。

バニシングドリルとは

バニシングドリルは切削工具の一種ですが、どのような加工ができ、どのような場面で活躍するのでしょうか。バニシングドリルとはどのようなものなのかを、一般的なドリルやリーマ、バニシングリーマとの違いと併せてご紹介します。

・バニシングとは

バニシングとは英語の「burnish」(磨く・光らせる)が由来で、「研磨」を意味する言葉です。ここから派生して、研磨加工のなかでも金属の切削面を塑性変形させて滑らかにする加工を「バニシング加工」と呼びます。

バニシング加工の特徴は、旋削並みの加工精度と研磨並みの面粗度を両立している点です。チゼルで切削加工をしながら、ガイドと呼ばれる部分が追従するようにバニシング加工を行っていく仕組みになっています。このバニシング加工を穴あけ加工と同時に行い、一度の加工で穴の内径を滑らかに仕上げるドリルが「バニシングドリル」です。アルミニウムのような非鉄金属の加工で使用されます。

・一般的なドリルとの違い

一般的な「ツイストドリル」は、切削による穴加工のみを目的とした工具です。ねじれがある刃の形状によって、切れ味と切りくずの排出性を確保しています。

一方で、バニシングドリルはねじれのないストレートな形状が一般的です。切削による穴加工を行いながら、金属の凹凸面を押しつぶして面をならす機能も持っています。形状こそストレートですが、浅穴をあける程度であれば切りくずの排出性はあまり問題になりません。しかし、深穴をあける場合にはオイルホール付きのバニシングドリルが必要です。

また、チゼルが鋭利にできているので、スラスト荷重に関してはツイストドリルと遜色ないものの、チゼル2枚とガイド2枚が穴の内面と接触するため、摩擦トルクはツイストドリルの約2倍となります。

・一般的なリーマとの違い

「リーマ」とは、ドリルなどで下穴をあけた後に、穴の内側の寸法精度や表面粗さなどの仕上げ加工に使う工具のことです。主に、ガイドピンを挿入する穴や摺動部の穴など、高い精度が求められる場所の仕上げに使われます。

形状こそドリルやエンドミルに似ていますが、リーマは先端部分に刃を持たないので、穴をあける用途で使うことはできません。エンドミルのように、不要な部分を削り出す切削加工に使うことも不可能です。あくまでも、あいている穴を仕上げるための工具だと覚えておきましょう。

バニシングドリルとリーマの大きな違いは、加工にかかる工数と仕上げの精度です。リーマの方がバニシングドリルよりも高い精度を出すことができる一方、ドリルを使って穴をあけておく必要があるため、工数は余計にかかります。

また、下穴をあける際に適切な取りしろを設けておかなければいけない点にも注意が必要です。取りしろが少ないと精度が出しにくく、多すぎると切りくずが詰まってしまいます。

このように、リーマは高精度な仕上げができる反面で、注意したい点も多いです。
工程を少なくしたい場合はバニシングドリルを、精度を高めたい場合はリーマを使用するなど、適切に使い分けることをおすすめします。

・バニシングリーマとの違い

「バニシングリーマ」も、バニシングドリルとよく似た用途の工具のひとつです。バニシングドリルと同様に、切削加工を行いながら塑性変形のためのガイドが追従することで、バニシング加工を行います。一般的なリーマと異なり、多くのバニシングリーマは単純な2枚刃構造なので、1回の加工で数段の穴を仕上げられる点がメリットです。

ただし一般的なリーマと同様、バニシングリーマには先端の切れ刃がないため穴加工を行うことはできません。あくまでも既にあいた穴の径方向の内面を滑らかにする際に使うもので、その点がバニシングドリルとの大きな違いです。

バニシングドリルの種類

バニシングドリルは段の付いた形状で、2段・3段などの多段加工が可能なものが一般的ですが、それ以外にも形状からいくつかの種類に分けることができます。
例えば、一般的なバニシングドリルはストレート状ですが、ツイストドリルのようにねじれのある形状で切りくずの排出性が良く、高速送りに適したものもあります。

また、先端の切れ刃まで切削油を圧送するためのオイルホールが付いたタイプは、深穴加工用途として最適です。ほかにも、1mm以下の穴をあける外径の小さいものや、側面切れ刃の枚数を増やすことで一度に切削する量を減らし、さらに面を滑らかにできるタイプなどもあります。

バニシングドリルの使い方

バニシングドリルは切削とバニシング加工が行える、複雑な多段加工ができるなど、非常に生産性の高い切削工具です。 ただし、本来の性能を発揮して工具寿命を延ばすには、いくつか注意したい点があります。ここでは、バニシングドリルの使い方を詳しくご紹介します。

・しっかりと保持する

刃具取り付け穴やテーパ部に切りくずの付着や打痕があると、刃の振れが発生する原因になります。しっかりと保持して作業できるよう、こまめに点検・清掃を行うことが重要です。

・必ず切削油を使用する

切削加工とバニシング加工を同時に行うという性質上、バニシングドリルは摩擦トルクが大きくなります。摩擦の影響を抑えるために、必ず切削油を使用してください。また、オイルホール付きの場合は、油量だけでなく油圧にも注意が必要です。

・再研削は限界がある

バニシングドリルを再研削すると、使用できる寿命が新品に対して30%~50%となります。このため、大きく損傷したバニシングドリルを再研削して使用することは、コスト面で不利になる点も押さえておきましょう。

・適切な切削条件を

被削材の材質とバニシングドリルの径を考慮して、切削回転数と送り量を適切に設定することも重要です。最適な切削条件を設定して加工精度と効率を向上させ、工具寿命の長期化を図りましょう。

工具は正しく使用することがポイント

バニシングドリルは、切削加工とバニシング加工を同時に行える便利な工具です。複雑な多段形状も1本のドリルで加工できるため、加工時間を大幅に短縮し生産性の向上も見込めます。

ただし、高い加工精度を求める場合はツイストドリルとリーマを活用した方が良いなど、全ての用途に適しているわけではありません。切削条件を間違えた場合は、工具寿命が短くなったり、加工精度に影響したりする恐れもあります。
正しい用途、方法で使用することが、加工精度と生産性を両立するためのポイントです。