切削工具におけるダイヤモンドの特徴は? CBNとの違いを交えて解説

切削工具におけるダイヤモンドの特徴は? CBNとの違いを交えて解説

ダイヤモンドは、宝飾品の材料として高値で取り引きされている貴石として有名ですが、切削工具の素材としても広く使われています。切削工具において、ダイヤモンドはなぜ素材に使われているのでしょうか。
この記事では、ダイヤモンド工具の特徴や種類、CBN焼結体との違いや使用する際の注意点などをご紹介します。

ダイヤモンドとは?

原石を磨いてカットすると、光の屈折によって美しい輝きを放つダイヤモンドは、宝石として高い価値を持つ鉱石です。同時に、自然界に存在する鉱石でもっとも硬いことで知られていて、熱伝導率にも優れています。
高硬度かつ熱伝導率に優れるというダイヤモンドの特性は、切削工具の性能として求められる条件に合致します。このため、ダイヤモンドは切削工具の素材に広く用いられているのです。

工具は使用を続けると、切れ刃やすくい面に被削材の切り屑が付着して固まる「構成刃先」に見舞われることがあります。加工精度に影響する現象なので、可能な限り構成刃先の発生を抑えることが重要です。ダイヤモンド素材を用いた工具は、超硬工具と比較しても構成刃先を形成しにくく、加工精度の安定が見込めます。
また、ダイヤモンド素材の工具は、刃先寿命に関しても超硬工具の10倍以上を誇ります。安定した精度で、長期にわたって加工を行えるのが、ダイヤモンド工具のメリットです。

切削工具に使われるダイヤモンドの種類

切削工具に用いられるダイヤモンドは、単結晶ダイヤモンドと多結晶ダイヤモンドの2種類に大きく分けることができます。ここでは、それぞれの特徴についてご説明します。

・単結晶ダイヤモンド

1つの結晶の塊でできているダイヤモンドが、単結晶ダイヤモンドです。天然のダイヤモンド鉱石の多くが単結晶ダイヤモンドにあたり、合成ダイヤモンドでは高圧合成ダイヤモンドやCVD合成ダイヤモンドが挙げられます。

単結晶ダイヤモンドは結晶の向きに沿って割れる性質を持っているので、鋭利な刃先の成形が可能です。しかし、力が加えられる向きによっては硬さが安定せず、欠けてしまいやすいという難点もあります。
これらの特徴から、単結晶ダイヤモンド製の工具は鋭利な刃先を利用した鏡面切削に適しています。

・多結晶ダイヤモンド

多結晶ダイヤモンドは、小さな結晶を集合させて成形したダイヤモンドです。一般的には、ダイヤモンドの粉塵に結合剤となるコバルトやセラミックを混ぜ、超高圧下で焼結して製造されます。
それぞれの結晶がバラバラの向きになるので、あらゆる方向からの力に強く、単結晶ダイヤモンドよりも割れや剥がれといった損傷が起こりにくいのが特徴です。
ただし、単結晶ダイヤモンドのように鋭利な刃先は作りにくく、成形も困難です。主に熱による化学反応を利用した加工法が用いられます。

CBN工具との違い

切削工具に使われる素材の中で、ダイヤモンドに次ぐ硬さを持つ物質として「CBN」が知られています。CBNとは、立方晶窒化ホウ素(Cubic Boron Nitride)の略称で、ホウ素と窒素からなる人工の化合物です。
硬さはダイヤモンドの方が優れていますが、耐熱性で比較した場合はCBNの方が優れています。ダイヤモンド工具は約700℃で酸化を始める一方、CBNは1300℃まで熱的耐性があるため、高硬度材料の高速切削も可能です。

切削加工が得意な材料としては、ダイヤモンドは、アルミニウム合金など非鉄金属かつ軟質材料が挙げられます。対して、CBNは軟質材料の加工に用いると摩耗が大きくなるため、硬度の高い焼き入れ鋼や鋳鉄の加工に用いられるのが一般的です。

ダイヤモンド工具の欠点

切削工具材料として優れた特性を持つダイヤモンドですが、デメリットがないわけではありません。使用する際は、ダイヤモンド工具の注意点を意識しておく必要があります。

・靭性が低く欠けやすい

単結晶ダイヤモンドは「劈開(へきかい)」と呼ばれる、結晶の向きに沿って割れる現象が発生しやすいです。一方で、焼結体にされている多結晶ダイヤモンドは単結晶ダイヤモンドよりも靭性が向上しています。

・鉄系材料の加工に不向き

ダイヤモンドの成分である炭素は、鉄と親和性が高い物質です。ダイヤモンド工具で鉄系素材を加工すると、高温状態では炭素が鉄に吸収されてしまいます。工具の異常摩耗を招いたり、被削材の表面に摩耗部分が転写されて仕上げ面が悪化したりする場合があるため、高温になる鉄系材料の加工にダイヤモンドは推奨されません。

ダイヤモンド工具の特性を知って工具の使い分けに生かそう

ダイヤモンド工具は、自然界でもっとも硬い物質で作られています。摩耗に強い反面、鉄系の素材の加工には向かない点に注意が必要です。
ダイヤモンド工具をはじめとした工具の材質の特性を知っておけば、被削材の材質に合わせて工具材質を使い分けられます。加工対象だけでなく、工具の材質に関する知識も身につけ、加工素材に適した工具の選定に生かしてください。